映画感想『いつだってやめられる』3部作

 前回記事を書いてから半年以上が経ち、いつの間にか年も明けているけれど、巷では緊急事態宣言という名の夜間外出禁止令が出るそうなので、ヨーロッパ*1の映画をレビューしていきます。

 

 さて、『いつだってやめられる』3部作はイタリアのコメディ映画で、ずばり邦題はいつだってやめられる 7人の危ない教授たち』、『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』、『いつだってやめられる 闘う名誉教授たち』の3作。

 邦題にはたいてい文句をつけたいけど、これもどうかと思う。なぜかというと単純に主人公は博士なりの学位は持ってるけど教授じゃないから。テニュアを目指して挫折した主人公たちが勝手に教授扱いされていたら怒るやら喜ぶやら……。なので、こんな長ったらしいタイトルを使うのはやめて『いつだってやめられる』1~3で通そうと思う。

 ちなみに、原題は『Smetto quando voglio』、『Smetto quando voglio: Masterclass』、『Smetto quando voglio - Ad honorem』で「いつだってやめられる」は普通に直訳っぽいけど、例によって例のごとく副題がめちゃくちゃ*2

  

 

  

 

 この映画がキャッチーなのはひとえにあらすじのおかげだろう。不遇をかこつ、というよりは働き口に困るアカデミアのドロップアウト達が一攫千金を目指して、脱法ドラッグを作り大儲けするが……というもの。

 個人的には彼らの気持ちはよく分かるし、いくら犯罪すれすれでいよう*3と全力で応援したくなる。「Politico」と言って無意識的に教え子を使いつぶす老教授も、テニュアを取るべく無茶苦茶な競争をさせられることも、イタリアでラテン碑銘学者をやっているのに給油係をやっている現状も、お金を手に入れて買うものが食器洗浄機なのも。流石に脚色だろうといいたくなる部分はあるけれども、かなり部分で真実味を持って迫ってくる。彼らの未来は閉ざされてしまっているし、ある種の才覚を持って一発逆転を狙ってもよいのだという才能原理主義の心がささやいてしまう。

 

 とは言いつつもこの映画のジャンルはドキュメンタリーではなく、あくまでコメディ。「イタリア的」な色恋沙汰やギャグを挟みつつ、1は軽快なテンポで派手に一味がやらかしていく。ポスドクあるある(?)もさることながら、人数が多く尺が短い割にはキャラがかなり立っているのがよい。

 彼女のジュリアを思いつつもついつい嘘を重ねてしまう主人公ズィンニをはじめとして、完璧主義で不摂生のアルベルト、アンドレアの使う文化人類学はいくらなんでも万能すぎるというのはともかく、オーバーリアクションで確率微分方程式を語りながらギャンブルで負ける経済学者のバルトメオは狂言回しの役割を担っている。文学系3人は少しキャラの区別が弱く感じたが、そこはしょうがないと思うしかない。1に関していえば、敵方のマフィアのボスも実は学位を持っていてアカデミアドロップアウトだったというオチも間が抜けていてよいし、最後の解決方法はスマートだし、途中の成功のウキウキとテンポの良さは秀逸といってよいだろう。

 

 一方で、2と3はいろんな意味でボケた印象を持ってしまう。『いつだってやめられる』3部作のシリーズ構成は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作に似たものを感じる。

 

バック・トゥ・ザ・フューチャー (吹替版)

バック・トゥ・ザ・フューチャー (吹替版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

時系列をいじって単なる続編ではないというのは工夫のしどころともいえる。ただ、この作品についていえばマイナスに働いているところも多々ある。大きなところでいうと最終的なゴールが提示されてしまうのだが、皮肉は効いていても、結局そうなってしまうのかという諦念みたいなものに溢れてしまった。しかも、その結末にいたる過程でも、1ではあったカタストロフを約束された狂騒というものがあまりにもなさすぎる。結局言いなりになって善行を積んでいるのにまた檻の中に逆戻りだし、2と3で出てくる女刑事が身勝手すぎるとしか思えない。特に、彼女は警視のいう通り出世欲からの行動しているのかそれ以外にモチベーションがあるのか明示されないのは、視聴者の共感を得るには厳しいものがある。ダブル主人公にするという野心があったように感じられるがそれが裏目に出てしまっているように感じる。

 

 なお悪いのが、個性的なアカデミアドロップアウト達を新しく加入させたのはいいけど、役に立っている描写が少なすぎるということ。尺を考えると7から10から11というのは11から12から13*4よりも厳しい。さらに言ってしまうと、2と3で話を分割してしまった結果、間延びした雰囲気はぬぐい切れない。2の終わりで立ちはだかるのが全然知らない登場人物というのもいただけない。物語の盛り上がりを考えるとやはり父であるダースベーダーであるべきだと思う。

 

スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲(字幕版)

スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲(字幕版)

  • 発売日: 2015/06/01
  • メディア: Prime Video
 

 

もちろん、SSの車両を走らせたり、脱獄計画を立てたりというのは面白いけども、デメリットを打ち消すほどの力はなかったと思う。

 

というわけで、総評としては、普通にあらすじを読んで気になった人は1を観た方がいいし、2と3は時間があればでいいんじゃない?といったところ。後半はポスドクあるあるみたいなのも格段に減ってしまったしね。

*1:なんとなく夜間外出禁止令出しているイメージない?

*2:原題もMasterclassの次はDoctorclassじゃないの? というのはあるが

*3:結局傷害事件を起こすんだけど

*4:こっちは実質全部11だけど

ゲーム感想『あつまれ どうぶつの森』

任天堂ハードから離れること約10年、Switchをゲームキューブ以来に触り、『どうぶつの森+』を友達と延々とやり続けた自分に買う以外の選択肢がなかったゲームこと、『あつまれ どうぶつの森』のレビューです。

 

 

あつまれ どうぶつの森 -Switch

あつまれ どうぶつの森 -Switch

  • 発売日: 2020/03/20
  • メディア: Video Game
 

 

 

(1)コンセプト・ゲーム性

どうぶつの森シリーズのコンセプトは明快で、オルタナティブな生活ということにあります。特に都市生活者の人間にとっては海や山に囲まれた空間で(ローンやカブという資本主義の侵略はあるものの)日々暮らしていくというところに大なり小なり魅力を感じるものでしょう。
そのコンセプトは本作でも十分に踏襲されているところで、草木や動物と戯れる生活が待っています。都市生活者には釣りや虫取りといった体験はある種理想化された子供のやることというカテゴライズになっており、エアコンの利いた室内で疑似的にできるというのは子供心にも大人心にも楽しく感じるところです。また、明らかに日本じゃ取れないものとかがいるので、そこはファンタジーとしてゲーム内でしかできない経験とも言えます。特に、魚釣りは魚影というランダム要素や釣り糸を垂らすという操作性において、よくあるRPGにおける釣り要素よりも優れているところです。

 

一方で、コンセプトは共通しつつも、微かな記憶をたどってになりますが、『どうぶつの森+』と比較すると、少し違うところがいくつかあります。島の地形を変更できること、家具などを作成できることなどが大きなところかと思います。(もちろんオンライン要素も追加されましたが)

これは明確に『Minecraft』などの「ビルド」系ゲームを意識してのことだと思います。素材を集めて物を作るというゲーム的リアリティを持ち込んだ要素といえるでしょう。この作品においては、島の地形変更という要素は良かったものの、家具作成はあってもなくても変わらないなという感想です。

マイナス要素としては、島がものすごく狭く感じているし、おそらく狭くなっている。離れ島も正直そこまでメリットがないし狭いので、ボリュームとしては欠けるなという印象です。

 

(2)ストーリー

ないです。なくてよいです。と言いつつも、たぬきちと協力して島を発展させるという最低限のものはあります。ただし、エンディングはちょっと唐突です。

 

(3)操作性

UIは変わらず良いですが、操作性はあまりよくない点がいくつか。特に、視点操作が十分にできないというのは今どきのゲームとしていかがなものかという印象です。家の裏にタランチュラやサソリが行ったらどないせいというのだ……。あとは、エイブルシスターズの試着室の仕様も変更してほしい。

また、評価点に挙げていた「島クリエイター」の操作も、効率的にさせてくれてもいいのではないかと思ったり。慣れるまでは埋め戻したりとかをよくやっていたので。。

 

(4)作り込み

作り込みという点では、生き物のグラフィックがめっちゃよいです。(ジンベイザメの一本釣りは出来るけど)リアリティしかない。ここはすごくこだわっているところで、同様に家具も細部までしっかり作り込んでいるなと思うものが多いです。

f:id:eris_albert:20200505015316j:plain

博物館の一室、蝶の展示室

最もテンション上がったのが、博物館の展示の凝り方。水族館とかには結構行きますが、国内トップクラスの水族館の展示と同レベルの展示で、もちろんガラスのくもりとかもないので、もしどうぶつの森世界に行けたら、ずっとあそこで過ごしたいと思うレベルです。虫の方もものすごく凝っているので一見の価値ありです。

 

どうぶつの森+』当時はそこまで気にならなかったけども、大人になって気になる点がいくつかあることに気づきました。

一つは地形生成の甘さ。どうでもいいですが、一つの川が二つの河口を持つとかありうる?だったり、「島クリエイター」でも地形の境界が元の草地形だったり、海岸の地形をいじれなかったりで正直ここは不満が残ります。

もう一つは出てくる生物や季節感の日本特化というところ。今作では南半球も選択可能ということで、半年ずれるだけだろうと思いつつも南半球を選択しました。やってみて目についたのは、結局出てくる生物や季節ものの類が日本固有種に偏っていること。これでは南半球在住の人たちがプレイしても日本の人たち同様の感慨を得ることは不可能になるのではないかと思ってしまいました。もちろん完全に日本というわけではなく、熱帯魚が釣れたりとかしますが、2月の夏にセミの大合唱をされても誰もピンとこないでしょう。完全にローカライズしろとは言いませんが、この点はグローバライズとして中途半端だなと思う次第です。

ゲーム性を損なう可能性もありますが、可能ならばそこまで配慮したうえで多様性を持たせる試みをしてほしかったなと思うところです。

 

(5)総評

色々ダメ出しっぽくなってしまいましたが、新しい要素も既存のものを壊すわけではなく、十分にシリーズの良さを引き継いだ作品であるといえます。主に過去作のファンがターゲットでしょうが、特に都市生活の皆様は一度手に取ってみるのもよいのではないでしょうか。

映画感想『ミスト』

誰が興味あるのか分からないけど、このブログを始めるきっかけを綴ると、以下の通りになる。

ミストの感想を共有したかった!以上。

 

ミスト (字幕版)

ミスト (字幕版)

  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: Prime Video
 

 

というのと、COVID-19で外に出ることもなく、すごい勢いで作品を消費していき、なお時間に余りがありそうなので、こうしてアウトプットしていこうと思ったからです。

 

一応、Wikipediaの受け売り*1以上のものは出ないけど、ミストの作品紹介をしていこうと思う。

原作はスティーブン・キングで『霧』という短編ホラーで、 基本的には原作準拠のストーリーみたいです。(ラストは違うらしいけど)

監督はフランク・ダラボン。監督としては『ショーシャンクの空に』、『グリーンマイル』とスティーブン・キング作品ばかり映像化している人。『グリーンマイル』ははるか昔に観たかなくらいですが、予告編とかから雰囲気は共通しているものはありそう。

役者はあまり興味ないのでスキップ。

 

この映画は出来そのものよりも、とある特徴からネット掲示板とかでめっちゃ有名というのが個人的な印象で、この映画を見たかった最大の理由になります。

ホラーもグロもあまり得意ではなく、ホラゲは意欲が指数関数的に減退していくので、できない身ではあるが*2、映画は自分の意思に関係なく自動で進んでいくので観ることはできる(家ならシーン飛ばせるしね)というのもあり、この作品でたまのホラー成分を摂取しました。

 

いるのか知らないけど、この映画を未見の人に言いたいことは、↑のリンクから本編観てから感想を見てほしいということです。

 

というわけで、本題、この映画の感想を述べます。 

あ、ちなみにネタバレ注意です。

 

 

 

 

 

 

この映画を語るうえで外せないのはやはり、ラスト。ここが原作との相違点であり、最高の余韻をもたらすシーン。

演出だったり映画撮影論みたいなのに詳しいわけではないけど、最終盤、音を消して外から撮るシーンが続いていく中で、主人公の絶叫とともにネタバレ(?)、大音量のアジアンテイストなテーマとともにエンドロールというのは素晴らしいものがあったと思う。

 

ということで、この映画を評するのに避けて通れない文言は「胸糞エンド」という言葉。

何が「胸糞」かというのは人それぞれで、個人的には『SE7EN』の方がよっぽど後味最悪だったし「胸糞」だっと思う。『ミスト』の後味が悪いかというとそうでもなかったけども。でも、静かにずしりと来る感じは非常によかった。絶望に生きる(いや生きていけるのか?というレベルの絶望だけれども)という意味では両者は共通なんだろうけど、『ミスト』の方が状況的にストレート純度100%という気がする。

 

という観後感もあり、この映画を見てからというもの、1週間くらいは主人公の運命というものを考えてしまったし、何が最善策だったのかというのに思いを馳せてしまっていた。

論じる人によっては主人公は全部裏目った(最初に母親を助ければよかった・黒人弁護士を行かせてはならなかった・薬局に行ってはいけなかった・黙って宗教家おばさんに従っておけばよかったetc)という意見もあるけど、まぁ全部結果論ですね。

主人公は十分頑張ったし、主人公たるにたりる存在だったと思う。勇敢で正義感があり、薬局行く以外は概ね「正しい」選択をしたんじゃないかな。

結果論で最後の選択はミスってしまったけど。

 

 

ホラーという要素で考えると、やっぱり見えないことというのは大事で、大体の作品は夜の闇を使って見えなくするんだけど、そこで霧を持ってくるのは面白い。映像的には白い霧なので、全体的に明るく、見通せそうで見通せないというは目を凝らしてしまって注視してしまうという効果もあったと思う。あとはでかいクリーチャーがぬぼっと出てくる感じも夜じゃ表現できないよね。

最初のサイレンも恐怖を掻き立てるのに十分。ちなみに、原作の『霧』をモチーフにして『サイレントヒル』シリーズは作られたらしいです。ホラー+サイレンでいうと『SIREN』を思い出してしまうけども。

ついでにクリーチャーの話をすると、デザインはめっちゃよかったけど、映像としては作り物感は否めなかった。2007年の映画と知ればなおさら。十分恐怖感はあったけど。

 

霧がないという意味で一見安全に見える屋内も、人間関係を原因にして安全地帯ではなくなるというのはこの作品の狙いだったのだと思う。ただ逃げ回るだけや霧を押しとどめておくだけでは面白くないし、連鎖して別の恐怖が立ち上がるというのは本来のモチーフなんでしょうね。

このほどよい人間関係の「ギスバチ」感も群像劇好きマンにとっては良い印象でした。都会vs田舎とか科学vs宗教とか、アメリカの日常観も垣間見えるのがよい。

『ミスト』を手に取った理由はいくつかあるけど、スティーブン・キングの映像化作品が結構好きというのもある。(網羅はしてないけどね)スティーブン・キング映画の良さみたいなのは人によっていろいろあると思うけど、ハリウッドにありがちなLAとかNYとかで華やかにみたいなのではなく、ほどよく田舎とかが舞台というのもあるのかもしれない。『スタンドバイミー』は言うまでもなく、『シャイニング』なんかもそうだよね。各種リメイクは置いておいて、そのうち『キャリー』も観たいです。

 

他に個人的におおっと思ったところは、軍人がいるんだけど、完全に無気力なところ。彼らは誰よりも状況を理解していて、なおかつ誰よりも絶望しているところに説得力をかなり持たせていると思う。最後は米軍バンザイなんですが。

あと印象的なのが、奥さんが家でクモにぐるぐる巻きにされて、めっちゃ綺麗に見えるところ。*3

 

  

総評としては、一発最後の展開に持っていくために最高の準備をした映画という感じだけども、人間模様を軸に恐怖を演出するところも十分楽しめるし、良作といったところですかね。

 

 というわけで、『ミスト』の取り留めない感想でした。深夜テンションで書いてるから、本当にまとまりはないけど、半年前の記憶としてはこれで十分でしょう。普通に見応えあるからぜひ、見ようね!

 

ミスト (字幕版)

ミスト (字幕版)

  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: Prime Video
 

 

*1:今見たらあらすじという名のネタバレがあったわ……

*2:実況を見るのは好きです

*3:でもクモの生態を考えると中は……

はじめに

こうして筆を取るのは5年、いや10年ぶりだろう。

今や、現実世界のコピーとなっている電子の海、そのうちの日本語海域は、まるで厚い氷が浮かんでいるようだ。SEOという名の浮力で浮かんでいる得体も知れない氷だ。
その海域の生態系は破壊しつくされつつあるのかもしれない。集合知はお互いに参照できてこそ価値が初めて出る。そう信じている人間としては非常に空虚な空間になっている。誰かの熱意や苦労は有効利用されることなく、底の方に消えていく。
かつてはそうではなかった。海は浅い方が海藻由来で富栄養となる。海の生き物のほとんどは海の多くをしめる水深の深い海ではなく、浅い海に生息する。誰かの神経系から発した情報は別の誰かの神経系を発火することができた。インターネット空間を私物化する情報の巨人は許されない、そういう思いもあるだろう。

それは好ましくないこと、その通りだ。しかし、そもそも自分はアウトプットで大きな情熱を持つことなく日々生きている、いち消費者だ。そのことでとやかくいう筋合いはあまりないのではないかと思う。

そこで、生産者になろうと試みている……ということでは残念ながらない。そもそも、5年前に書いていた時も人を引き付ける文章をかけたためしはないし、10年前、かつての浅かった海ですら生存活動の代謝の結果として、海を漂っていただけだ。
今度は深い海の中、マリンスノーとして沈んでいく。

 

まぁ、要は自分の感想とかをアウトプットとして、そっと海に流すだけです。